第50号 株式会社 安積製茶工場 安積孝三氏

茶業に携わるたくさんのガンバル人の中から、とびきりの頑張りやさんをご紹介するこのページ。 今回ご紹介するのは茶業に携わるたくさんのガンバル人の中から、とびきりの頑張りやさんをご紹介するこのページ。今回ご紹介するのは、北海道のお茶の安積様。小売に特化した戦略で、札幌を中心に全十五店舗を展開していらっしゃいます。宮崎の夢茶房様は社長の実のお兄様。別会社組織でありながら、製造工場との密接な繋がりを強味に宮崎茶ブランドをメインにした産地別のアイテム構成で、お客様に選ぶ楽しみを提供しています。
株式会社 安積製茶工場
代表取締役 安積孝三氏

ゴルフは趣味を越えていて
特技の域に達しているという噂の社長。
昭和22年生れ。
メインは宮崎茶。
父親が京都で茶問屋をやっていました。「自分のところで作ったお茶は自分で売りなさい。」というのが父の方針でして、兄が宮崎で八町歩の茶畑を持ち、私が札幌で小売するという事業展開となりました。そういう関係で、当社のメインブランドは宮崎茶なんです。
札幌ではブレンド等一切しませんので、宮崎で生産し仕上げしたお茶を売ります。もちろん消費者の声、「お客様からこんな要望があったよ。」という情報は、きっちりフィードバックして、製造に活かしてもらいますが…。
十五年前から、静岡・八女・宇治等宮崎以外のお茶を産地別のアイテム構成で扱っています。百貨店から「何か新しい提案を」と求められ、当時はお
茶屋さん自体が「静岡茶」とか「宇治茶」という看板でご商売されるのが普通だったので「一つの店舗の中で色々な産地のお茶を扱ってみよう」と考えたのです。原則として「一つの産地に一つの問屋さん」と絞り、「顔の見えるお茶」ということを大切に仕入れています。産地との二人三脚、これが当社の特長ですね。

札幌本社外観。
和のテイストが現代的な機能と
融合した洒落た店。
アフターケアは信頼の礎  
苦情処理に誠意を尽くす。
売り場には「お客様の声ノート」というのがあり、販売員はどんな些細なことでも発信するように教育しています。「おいしい」と言ってくださるお客様の声には感謝の気持ちでいっぱいですが、それ以上に大切なのは苦情ですね。何も言わないお客様、不満の声にこそ改善の芽があるのです。
苦情があると、当社は社員がポット・お湯・湯呑み・急須を持ってお客様のご自宅に伺います。そこで買っていただいたお茶を実際に淹れて飲んでいただく。言ってみれば実演ですね。大抵のお客様は、そこで「ああ、私の淹れ方(あるいは茶器)に問題があったんだわ。」と納得してくださいます。社員が淹れたお茶を飲んでも「やっぱり口に合わない。」とおっしゃる時には、持参したちがうお茶を試していただいて、お好みの味を探していただく。稀にそれでも納得していただけなくて返金という場合もありますが、徹底的に苦情処理に誠意を尽くすことで、お客様は逆に安積のファンになってくださるのです。
「お茶は気に入らないけど貴方は気に入ったわ!」というお客様の声を聞くと、アフターケアは信頼の源だと強く確信します。玄関から先に入れさせてくれない、「絨毯にお茶をこぼしでもしたら弁償してもらう」と言われた…。そんなハードルを一つ一つ乗り越えていくことで、お客様と当社との距離が縮まっていく。苦情が発信されていると、「お客様に希望を持たれている。」という安心感がありますし、苦情が少ないと、関係がドライになって、黙って当社から離れてしまわれたのではないか、と逆に不安になるのです。

曲線を多用したやさしい印象の店内。
通路が広々と確保され、とても買い物しやすい雰囲気だ。

ギフトはシンプルな中に専門店の風格が漂う。
素人の視点から発想を得る。

店員さんの接客はとても自然で親切。
なんとなく相談したくなってしまう。
私が経営者として肝に銘じていることはもう一つ、「素人を大切にする。」ということです。もちろんお茶屋をやっている限り、根っこにはプロとしてのお茶を見る目・判断力は必須ですよ。しかし、このプロの視点をお客様に押し付けたり、「どうせこんなものだろう。」とお茶の素人であるお客様を見下すことは命取りだと思うのです。人気商売と同じで、「素人に好まれる。」というのは大切な要素ですよ。素人の視点という意味では、「お客様の声ノート」に社員がどんなことを書いても受け止めます。「こんなのは常識じゃないか。」と却下することはしませんし、「こんなことを書いたら笑われるのでは?」「怒られるかも?」と萎縮したらイキイキした発想は得られませんからね。
和菓子で一服するコーナー。
イオンの店舗では、地元の和菓子屋さんと提携して、お茶を飲んで一息つけるコーナーを作りました。限定のお菓子だという話題性もあって取材を受けたりするんですが、ここのリニューアルも現場の声が原動力です。曰く、「カウンターと椅子が高くてお年寄りが難儀している。」「車椅子の人はどうするのか?」。健常者の視点だけで店作りをしていた自分を突きつけられ、衝撃でした。
他にも、量販店では夫婦で買い物に来ても男性は女性の買い物が終るのを待っているというパターンがとても多く、「無料のお茶では後ろめたくてゆっくり出来ない。きちんと料金を取ってくれた方が有り難い。」という声があって驚かされました。お茶屋には、お茶葉はお金をいただけるけれど淹れたお茶はサービスという固定観念がありますが、リニューアルでは発想を変えて、お金をいただいてゆっくりお茶を飲んでいただくようにします。

試飲のお茶は、必ず茶釜で
沸かしたお湯で供される。
奥の茶室も憩いの空間。
社員に感謝。  
社員にとっても、自分達現場の声が経営に活かされるというのは働き甲斐に通じます。私は社員にはとても恵まれている。ポット持参のクレーム処理も、私がやれと命令したのではなく、「どうしたらいいだろう?」と社員が始めたことです。
特に取締役統括部長の菊地が入社してからは、社員の定着率も向上心もグーンとレベルアップした。私と社員のパイプ役として申し分の無い働きをしてくれるし、私も彼にだけは隠し事をせず、すべてオープンです。昔、父に「人を使うのは金儲けよりも難しい。」と言われましたが、この点だけをとっても、私は幸せな経営者だと思います。
売りにくいお茶は取られにくい。

茶畑からの直送を謳って
宮崎茶をメインに展開。
三〇年前からメインは深蒸しです。北村園さんの先々代に「特色のあるものを売りなさい。特色があって旨いということが食品の使命だ。」と言われたこと、茶業界の池田さんの「売りにくいお茶は取られにくい。」という言葉、この二つは迷った時に立ち戻る私の原点です。
心に響く商い。  
おかげさまで二十五年続いている年二回の売り出し・五割得セールでは、本店だけで1万5千通のDMを出し一日に千三百人のお客様にご来店いただくようになりました。札幌近郊の店舗を合わせれば五万通のDMを発送します。
不透明な時代ですが、モノだけを流通させてマージンをいただくのではなく、お客様の心の琴線に触れるような商いをして、お客様に喜んでいただくことが当社の使命だと自覚しています。

再び来店を促す仕掛け、
お楽しみ券。
株式会社 安積製茶工場
〈本店〉  
〒063-0812 北海道札幌市琴似2条2番20号
TEL: 011-642-3934(代表)
FAX: 011-642-3940
〈支店〉
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