第50号 株式会社 赤堀商店 赤堀譲治氏

積極的な経営で明日を拓く経営者をご紹介するこのコーナー。
今回ご登場いただいたのは、今年3月に新工場を竣工されたばかりの
静岡県小笠郡浜岡町・赤堀商店様。
2002年には農林水産大臣賞も受賞されました。
昭和29年生まれの社長が率いる平均年齢33歳のフレッシュなスタッフは、
明るくイキイキと仕事をされています。「大きいことは良いことだ。」
という発想とは一線を画す経営姿勢が魅力でした。
株式会社 赤堀商店
代表取締役 赤堀譲治氏

親しみやすく飾らないお人柄が
若い社員を引きつける!
「昭和29年10月8日生/血液型B型」と
名刺にある。

新社屋外観。まぶしいほどクリーンなイメージ。


仕上げ工場全景。
●この時代に大きな設備投資、周囲の皆さんを驚かせたのではないですか?
「これをやらなければ未来はない。」という気持ちですよね。いくら「うまいお茶を作っている」という自負があっても、衛生面に不安があればバイヤーから選別されてしまう時代です。「おいしいお茶」に「安心・安全」をプラスしてお客様にお届けしたいと考えました。
当社は戦後すぐ昭和21年の創業で、当時は紅茶をアメリカ・イギリスに輸出していました。旧工場の設備はその時代からのものですから、かなり古くなっていましたので、自分の気持ちとしては十年以上前から「工場設備を新しくしたい。」という思いはありました。計画を立て始めたのは4年前かな。専務・部長・課長と一緒に素案を練り始めました。

衣類・靴を整え、手を消毒し、
エアシャワーを 通ってはじめて
製造の領域に足を踏み入れられる仕組み。
●皆さんの意見を集約されたわけですね?
経営者には二つのタイプがあると思うのです。一つは強烈なリーダーシップでトップダウンを得意とするカリスマ経営者。もう一つは、現場の意見を吸い上げて一緒に考えていく経営者。私はカリスマにはなれませんから(笑)、「こう考えたのだけどどうだろう?」と必ず現場と対話するタイプです。
本当に人には恵まれていて、日付が変わるまで大激論したこともあります。それだけ自分の会社という意識で真剣に考えてくれるということに励まされましたし、色々なことを教えられました。
たとえば、品質管理室を仕上工場と製品工場(袋詰めをする工程)の間に配置し、工場内部の壁にガラス窓を多くし、誰がどこで何をしているかわかりやすくしたのも、現場の意見です。品質管理室では仕上工場で作られたお茶の品質検査や袋詰めしたお茶の残留酸素濃度の検査をしますが、これを二つの工場から出入りできる共有スペースにしたことで、事務所まで持ち込んで検査していた時代に比べてスピーディになったことはもちろん、第三者の目が生きるという利点がありました。情報の共有と言うのでしょうか、お互いの職場の風通しが格段に良くなりましたね。
< 新社屋>
< 旧社屋>
旧社屋と新社屋を空から見る。
次は新社屋の隣地にアンテナショップを
出すのが夢とのこと。
●もう少し具体的に教えていただけませんか?
たとえば品質管理室でシール不良のために残留酸素が多いことが判明したら、すぐにそのシールした機械の前に社員を集めてどこがマズかったのか原因と注意点を説明する。特別な日時に設定して研修をするのではなく、即対応しそれを水平展開することで社員全体のレベルは目に見えて上がっていきます。普段は和気藹々と仕事をしていますが、そういう点は大変厳しい。
昨年亡くなった父が、まだそんな設備が普及していない20年以上前に残留酸素計を導入してね、もともとお茶のおいしさと鮮度については、早い時期から深い関連性を見出していました。ガス漏れだけがいけないのではなく、お茶のフレッシュさをいかに保つか?ガス置換率についてもチェックは欠かしません。
加えて、袋詰めにもクオリティがあるという考えです。袋に対して最適にシールされているか、曲がっていたりお茶葉が偏って真空にされていないか、この点も大切なポイントです。細心の注意を払って包装せずに、おおざっぱなシールでもガス漏れしなければ良い・数をこなそうという発想に陥れば、商品価値は半減しますからね。徹底して教育しますから、社員は「私たちは日本一美しく正しく包装する技術がある」という自負も芽生えます。

会議室。
休み時間は卓球場に早変わり?!

仮眠スペースも設けた
社員食堂。
●付加価値ですね。
そう、お茶葉というモノだけで差をつけようとしても限界があるでしょう。どの問屋さんも、自分のところのお茶が一番おいしいと思っているわけだし(笑)…。
包装技術だけでなく、情報の発信も付加価値と捉えています。私がパソコンを駆使して作る(笑)「茶娘通信」というニュース。これも1990年6月創刊だから、もう随分続けています。もうすぐ100号ですよ。
当社の新商品の情報ももちろんですが、産地の情報を、私の思いを交えながら語ります(笑)。文字ばかりだと読んでいただけないので、なるべく写真を多くしてカラーでね、お茶屋さんがお店にいらしたお客さんに「今静岡では…」と会話するネタとなるように、産地を身近に感じていただくことが目標です。
小売店さんのお中元・お歳暮・売り出しのチラシも作って差し上げます。カラーコピーを導入する時には少々迷ったけれど、個別のサービスは今後ますます必要とされると考えて決断しました。
品質管理室は、仕上げ工場と
製品工場の間に位置する。
●工場の売りは何ですか?
衛生面については、ハサップ(HACCP)を取れる水準です。工場に入るにはクリーンルームのエアーシャワーを通過しなければ入れません。
また、外部からの虫やほこりを防ぐために吸気と排気の量を調節して、工場内部の気圧をプラスにしていますし、茶箱も木製からプラスチック製に切り替え中です。木製だと紙や木屑の混入が怖いですから。茶工場はお茶の粉が難題でして、すぐに緑色の粉が積もってしまうのですが、自分達でこまめに天井の水銀灯の掃除やメンテナンスが出来るようにエレベーター式なのですよ。
もう1つ、ポイントとしては「フレキシブル」ということかな?大型の機械をガシッとダクトで繋ぐのではなく、仕事の量や内容によってラインを組替えられるように可動式にしました。今の世の中、変化が激しいですからね、大きなラインを固定するのは危険だと考えたのです。小回りがきく、変化に対応できるということが大きな強味ですね。
乾燥室はお茶屋の心臓部だという思いから、乾燥火入れ設備の周りの壁は耐火構造。遠赤マイクロ波タイプが2基、ガスタイプ・ガス遠赤タイプが各1基。それぞれ特色があり、得意先のニーズにきめ細かく対応しています。
冷蔵庫も電動式移動棚を採用して、102坪ですが360パレット最大200トンの原料を保管できます。
余談ですが、バルコニー以外すべて禁煙にして灰皿も撤去しました。どうしても吸いたい人は自分で携帯用の灰皿を持参して、吸殻もお持ち帰りくださいということです。また会社の業務以外のゴミは家に持ち帰り、近隣の皆さんにご迷惑をかけないように指導しています。

固定式のダクトを排して、
仕上げの工程を結ぶ移動タンク。
フレキシブルがキーワード。

袋詰めをする製品工場。
自動詰め機も完備し、一日約8,000本の
お茶を袋詰めに出来る。
●新工場建設は、単に社屋が新しくなったというだけでなく、
業務改革も伴った大きな変革という感じですね。
そうですね。昨年から今年にかけては忘れられない1年でした。農林水産大臣賞も、言って見ればお茶屋にとっての甲子園みたいなものですから、一度は手にしてみたかった。
それが運良く昨年受賞できましたしね。また先代である父が亡くなった。哀しい出来事ではあったけれど、ずっと身体が弱くて寝たきりでしたのでね、寿命を全うしたことに「お疲れ様でした」という気持ちですし、本当に世代交替したのだなという自覚も一層芽生えました。そして今年、新社屋が完成し、感無量です。これを足がかりにしてステップアップしていきたいですね。

照明もスルスルと
天井から降りてきて、
自分達でこまめに
メンテナンスできる

木の茶箱に変わって活躍中の
プラスチックケース。清潔が一番!

マイナス7°前後に保たれる
高さ7メートル60センチの冷蔵庫は、
電動式移動棚の採用でパレット毎に管理され、
社員が重い荷を担ぐこともなくなった。

約22坪の冷蔵庫前室。
10°以下に設定され、
出荷前の製品を保管する。
●将来の夢は?
こだわりを持ったお茶を売っていきたいなあ!この地域はメロンの産地でもあるんですが、メロンは出荷前に全品糖度の検査をして、ある一定の基準に達していないものは出荷できないんです。お茶もそういう基準が作れないかなと思いますね。
また、今揺れている産地表示の問題についても、当社はもともと静岡産のお茶しか仕入れてこなかったので、どんな任意表示の基準が出来ようと怖くないのですが、静岡茶の需要や相場の予測が難しいですね。しかし「おいしいお茶を通じて、人々の健康と幸せを考える企業」という経営姿勢を忘れずに、経営の才覚が問われるこの時代に挑戦していきたいと思います。

約45坪の資材倉庫も可動棚を採用。

事務所入り口に位置する小売店舗。
味の濃い深蒸し茶なら当店へ!

株式会社 赤堀商店

本社所在地:

〒437-1615
静岡県小笠郡浜岡町門屋1950-2
電話
0537-86-3421
FAX
0537-86-3426
E-Mail
maruyo@maotv.ne.