第52号 株式会社 望月利雄商店 望月八千代氏

茶業に携わるたくさんのガンバル人の中から、とびきりの頑張りやさんをご紹介するこのページ。
今回ご紹介するのは、静岡市内の望月利雄商店様。荒茶工場・仕上げ工場が事業の主体だが、現社長の時代から消費地の大手流通業者との取引が始まり、一方で通信販売にも力を注ぐ。「一切宣伝はしないけれど、お客様は少しずつ増えている。」というユニークな通信販売部門の要である八千代夫人にお話を伺った。
株式会社 望月利雄商店
企画室長 望月 八千代氏

丁寧でありながら、ユーモアがあり 機転が利く電話応対。「うちの息子に こんな嫁が欲しい!」と思っている お客様も沢山いるだろうと感じた。
「もし自分だったら」と置き換える。    
率直で明るい向日葵のような人である。「パートさんに『八千代さんは自分を出し過ぎる。今日はおしとやかに。』と念をおされちゃって。」と言いつつ、取材を受けつつ電話を取り、お店にいらしたお客様のお相手をし、銀行さんと冗談を言い、パートさんに指示を出し、大車輪で働いている。
常務である修さんとの結婚前は、お茶とはまったく縁のないOL生活。結婚後、経理や通販窓口等の茶業を手伝い始めたが、三か月後にお姑さんが突然病に倒れ、その後は「教えてくれる人がいないから、自分流で必死にやって」十五年が過ぎた。
彼女の自分流は、「自分がお客様だったら、どうしてもらったら嬉しいか。」ということが原点。取材に伺った四月の下旬、実際にお客様との電話でのやりとりを聞いていると「ご注文のうち半分はすぐにお送りしますが、もうすぐ新茶が出ますので、新茶が出てから残りの分はお送りしますね。ええ、やっぱり新鮮なお茶を飲んでいただきたいですから。」という具合だ。「儲けを第一に考えたら出来ないですよねぇ!」と笑うが、こんな応対をされたらすっかりファンになってしまうにちがいない。
自由記述の顧客情報。修常務が開発者だ。
究極のONE to ONEマーケティング    
ハートフルな個人情報。
お客様とのやりとりをしながら、八千代さんが操るパソコンには、お客様情報が検索できる修さんが作ったデータベースのシステム。その詳細な内容に驚く。ペットの犬の名前。お孫さんの年齢。ご主人が亡くなったこと。等々、電話での会話の中で話題になったことを入力してある。この情報を後ろ盾に「ナナちゃん(犬の名前)お元気ですか?」と会話が弾む。お孫さんの入学祝・ご主人の新盆、お客様の節目節目には、自筆のお手紙と彼女が選んだ心尽くしの品物を商品と同送する。
「だって嬉しいじゃないですか? 逆の立場だったら、『ああ、私は特別なお客様なんだ。』って感じますよ。でも何よりも私が『喜んでいただくことが嬉しい』んですよね。」そんな八千代さんの心意気が伝わるのだろう、お客様がお客様を紹介する形で、県外を中心に通販の顧客は徐々に増えている。


自筆のお手紙がお客様との間を行き来する。
一人一人としっかり繋がっている証だ。
 

ざっくばらんな社長。
「商いは時代と共に変わる。」
商人になりたくない。  
「上手く言えないんですが、私、商人になりたくないんです。私にとっては、十円のお客様も十万円のお客様も同じお客様なんですよね。商人になりたくないと言うより、なれないっていう方が正しいかも知れないですけど。」と笑顔で語る八千代さん。「このお茶にはこの袋」とパッケージでお茶のランクを識別するのが普通だが、お客様の好みによって包材も変えるというパートさん泣かせの細かい心遣い。たとえ一個でも「これはお客様にとっては特別な贈りもの」と思えば、ラッピング小物を買いに百円ショップに走ることもある。「こんな感じで包装して!」という八千代さんのイメージを、しっかりカタチにしてくれる五名のパートさんあってこそ、と感謝の気持ちも忘れない。
 
一手間加えた包装でお客様に喜んでいただくためには欠かせないパート部隊。    

「できません」はご法度。    
「うちはカタログとか作っていないので、初めてお電話いただいたお客様にはお茶の見本を『こらしょ』と送るんです。まずはそれがお付き合いのスタート。」もともと仏事等で望月利雄商店の名前の入ったお茶をいただいた消費者が「おいしかったから直接買うことが出来ますか?」と電話して来たことから始まった通信販売だ。一煎袋に色々な価格帯のお茶を入れて、「お好みが見つかったらご注文ください。」とお手紙を書く。これで約九割のお客様がリピーターになると言う。
一番驚いたのは、クレームに対する対応だ。まずはスピード。クレーム対応完了まで三日以内を死守。どんなクレームに対しても、きちんと向き合う。ぜったいに「出来ません。」は言わない。「代わりに○○なら出来ます。」「ここまでなら出来ます。」という対応をする。たとえば「去年の茎茶に比べて、今年の茎茶は茎が細いような気がする。」というクレームがあれば、「お茶は自然の産物だから、天候等の影響を受け毎年出来がちがう。」ということを説明した上で、「今年のお茶の中から、お気に入りを見つけてください。」と見本のお茶を「これでもか。」というくらい沢山送るのだという。
こんなエピソードがある。「茎茶を食べたら、茎が舌に刺さった。」というクレームがあった。「えっ、どういうこと?」と不審に思ったが、沢山の見本茶を送って対応した。そのお客様から三年後にお電話があり、「以前茎が舌に刺さったという苦情に親切に対応していただいたことが忘れられない。時々人を介して注文していたが、これからは直接注文させてください。」その後頻繁に注文をいただくようになり、娘さんの入学祝まで贈ってくださるようなお付き合いをしている。クレームに真摯に対応することで、しっかりとお客様の心を掴んでいるという訳だ。

取材時には、輝くような新芽が集荷されていた。

荒茶工場の外には、生葉を積んだ軽トラックや
リヤカー が順番を待つ。
支える人々。    
社長のお話を伺った。「もともとうちは精揉機屋。孫ばあさんが嫁に来た当時は、手で回す粗揉機で、南京袋にお茶葉を入れて足で踏んで揉んだという話を小さい頃には聞かされて育ちました。精揉機屋っていうのは、ある意味やくざな商売で、相場に左右されるし投機性も高い。先代の時代には、直販を志して東京・東北にお茶を行商したりしたし、私の代になってから、消費地の葬祭業者やJAさんとのパイプが出来て、行商はやめた。息子の代は通販に力を入れているしね。時代とともに商いは変化していくものだし、それは必要なことだと思います。今は共同工場が大規模化しているというのが大きな流れではあるけれど、こういう小さい精揉機屋が、昔から付き合っている地場の農家に葉っぱを持ち込んでもらって加工するということで、特徴のあるお茶づくりが可能だということもあるんですよ。」
仕事も介護も、二人で一緒にやってきたご主人の修常務は、温和で思慮深いお人柄。前向きで無鉄砲、やると決めたら即行動の八千代さんとは、絶妙のコンビだ。
「おばあちゃんの介護も何でも二人でやって来たの。だって一人だと辛いことも、二人でやれば楽しいでしょう!」
屈託なく八千代さんは笑うが、支える修さんの度量の広さを感じる。五月の繁忙期が抜ける頃、毎年山形からさくらんぼの詰め合わせが届く。それは修さんから八千代さんへのご褒美。二人目のお子さんが今年保育園に入園されて、ますます仕事を楽しむ二人になりそうだ。

製造と販売の両輪を廻す修常務と八千代さん。
株式会社 望月利雄商店
〒422-8004 静岡市国吉田4丁目16番5号
TEL: 054-262-2828
FAX: 054-262-1529