第50号 古賀茶業株式会社 古賀 勝裕氏

積極的な経営で明日を拓く経営者をご紹介するこのコーナー。
茶事記50号特別記念として、注目度の高い「経営者登場」をダブルでお届けします。
トリを飾るのは、八女産地問屋として
日本一の玉露の扱い量を誇る古賀茶業株式会社様。
社長の一人娘であるさと子常務と婿養子に入られた勝裕専務が
絶妙のコンビネーションで会社を牽引されています。
今年三月末にクリーンな新工場を完成され、
取材に伺った5月はフル稼働で活気があふれていました。 

古賀茶業株式会社
専務取締役 古賀勝裕氏
常務取締役 古賀さと子氏

茶業界に入って21年。
今では、仕入れの時にお茶が値段を言うのが聞こえるという専務。
自然体で包容力のあるお人柄。46歳。

 

新工場全景。一階に仕上げ設備と倉庫。
二階には今後増えると予測する包装工場を大きくとった。

八女玉露の荒茶がずらりと並ぶ。
●「八女玉露を圧倒的に扱う。
工場を案内していただいて驚いた。「八女玉露」と書かれた大きな袋が、行けども行けども続いている。そのボリュームに圧倒される思いだ。
 
●瀬高は八女玉露のルーツ。
本社所在地は山門郡瀬高町。八女という地名のない場所で、八女茶を商うことに創業者である現社長・古賀政利氏は大きなリスクを感じていた。「八女として産地として認められていないのではないか?」という不安である。しかし調べると、すぐ近くの清水山の麓が八女玉露の発祥の地であるということが判明した。田北隆研という清水寺住職が廃藩置県の折、浪人が増えないようにと茶の伝習所を設立したという。
文献には「明治十六・七年の頃は茶畑十丁歩以上に達す。初め玉露製とし。後ち専ら輸出向けとす。」とある。
その後隆研は率先して茶業組合を起こし、「明治二十年安場福岡県知事其の茶園を巡視し其の規模の拡大なるに驚」き「隆研の意見を容れ勧業奨励を認」めたため、明治二十七~八年の「茶代金出入改帳」「毎年度製茶代出入り簿」等、現在も残る大福帳には毛筆で臨場感のある記述がある。この史実が解明されて、一時真剣に検討されていた八女への引越しは取りやめになったという。


フル稼働の製造ライン。
一日3,000キロの仕上げをする。
 


エアシャワーを10秒浴びなければ
生産設備に入ることは出来ない。

包装工場。クリーンな空間だ。
●福岡三越へ進出。
卸専業で工場横の売店だけが小売だった古賀茶業が、福岡三越に出店したのは五年前。この店で売るお茶の仕入れも企画もすべて常務が受け持つ。売上金額としては全体の五パーセント程度だが、小売という業態で消費者と直接接すること発見することは多い。
三越の売場には携帯電話が置いてあり、販売員は何か問題がおきるとすぐに常務に電話してくるが、今年は「八女茶とあるが八女のどこの畑のお茶なのか?」という今までなかった問い合わせが多く驚かされた。
小売の分は自分が仕入れる常務だから「それは○○。○○大学の東側。」と即答できる。すると消費者は安心して購入する。どこの畑かを知りたいというよりも、畑まできちんと把握しているかを試されているのだ。
この経験を元に、今年の新茶には「○○茶園」という荒茶の生産地を明記したシールを袋にすべて貼った。大変好評だったという。

福岡三越の売場。
販売員さんは若いがとても親切だった。

新茶には栽培した茶園が明確に
わかるようにシールを貼った。
 
●まず飲んでいただくこと。
小売をやって身にしみたのは、消費者は安くておいしいお茶を欲しているという不変の法則。まずは飲んでいただくことと売場では試飲を徹底させ、茶々撰という一煎パックを八種類、一袋百円~二百円でバラ売りしてきた。母の日で贈られたお茶がおいしかったから、ともらった側の母親が袋を持って買いに来ることもあり、おいしいお茶は何よりの営業マンであることを実感するという。
嘘をつかない。ごまかさない。販売員には「自分がお客様だったらどうしてもらいたいか?」と立場を置き換えて想像することが販売の原点だと教育している。「このお茶を飲んでみたい」と請われればその場で封を切って試飲していただく、進物ではこのパッケージにこのお茶を入れて欲しいと要望されればセットを入れ替える等、お客様の些細なわがままに応えることで顧客満足度はグ―ンと上がると実感している。

常務の「独断と偏見(笑)」でパッケージは
シンプルが信条。
白茶はやぶ北の稀少なお茶を生産家と
一緒に商品化した力作。
●イベントでお茶の底力を実感。
今年の新茶期には三越からの要請で、きちんとした手順でお茶を淹れてお金を払って一服していただくスペースの運営を任された。専務と専務の弟は日本茶インストラクターの一期生なので、インストラクションはお手のものだ。
予想外に若いお客様が多く、淹れ方一つでこんなにもおいしくなるのか、という声が圧倒的に多かった。
中には百グラム5千円という高額の玉露を購入される方もいて、お茶について語る場の必要性を感じたという。

本社の横にある小売店舗。
常務が仕切る前はお母様のお店だった。
代々女性が販売を仕切る社風?
 
●玉露を食べるアイスクリーム。
一方で、玉露の消費量が下降線であることも事実。飲んでいただければ「おいしい」と言っていただけても、自分では中々玉露を淹れられない消費者は増えている。
予想外のヒット作となった「八女玉露アイスクリーム」は、若い年代に玉露を認識してもらおうという常務の思いが出発点だった。添加物を一切加えないアイスクリームは、濃厚でありながら後味が良くクセになるおいしさ。三越での販売以外にも「全国の名物アイスクリーム」といったイベントからもお声がかかるようになり、常備してくれる販売店も増え、人気は着実に上り坂だ。

八女玉露アイスクリーム。
玉露茶葉を贅沢に使った逸品。
 
●お茶は食品。
アイスクリームを手がけたことで、雪印の問題を大変身近に実感し「お茶は食品」という思いがいっそう深まった。今回の最新設備の新工場も、衛生面に最大限の配慮をし、エアシャワー・色彩選別機を導入。安心・安全を追求している。「当社などお取引先の茶専門店様から見ればちっぽけな卸問屋に過ぎません。しかしお取引していただいている以上、その責任は大変重いと自覚しています。」という専務の心意気。ひたむきに、真剣に、品質にこだわり、八女茶ならではのおいしさを安心して召し上がっていただくために、日夜努力を続けている。

検査室では包装後の商品チェックや
残留酸素チェック等も行なう。
 
●人を惹きつけるエネルギー。
ゆうぱっくからもお声がかかり母の日新茶も三年目。「アンテナが高いですね。」という私の相槌に「そんな洒落たもんじゃなか。何か匂いがするとよ。」とケラケラ笑う常務は、率直で人を惹きつけるエネルギーがある。身体の弱かった父の運転手として入札場に出入りしていた若い頃は、まだ女性は誰もおらず、女臭いと言われないように入口に捨ててある茶殻で手を洗ってから入ったというお話を聞きながら、サバサバとした雰囲気の奥にある細かい配慮に心を打たれた。
「白茶」は、中国茶でいう「白ごう銀針(はくごうぎんしん)」という珍しいお茶だが希少性が高く期間限定の特選商品として珍重されており、福岡三越でも人気の商品。
これも生産者のお年賀のお茶を一口飲んだ社長が、「このお茶はおいしい。なんかちがう気がする。ちょっと聞いてみろ。」ということで生産者に尋ねたことが、きっかけになった。水色もよく、何より茶殻が金白色。しかし、口に含むと玉露のような旨みが広がる「幻の煎茶」だ。
思い起こせば、当社が消費者の座談会の記事を始めて茶事記で紹介した時にも、ただ一社直接お電話をくださり、いろいろ座談会の様子を聞かれ、その後励ましのお手紙とお茶を送ってくださったのも古賀製茶様だった。好奇心と即行動、背景にあるきめ細かい思いやりの心が、仕事も会社も活き活きと楽しくする源泉だと感じた。

「魂を抜かれる!」と写真嫌いの常務だが、
最後に社長とツーショット。
表情豊かで明るいお人柄から
元気をいただいた取材だった。
 

古賀茶業株式会社

本社所在地:

〒835-0024
福岡県山門郡瀬高町下庄493-1
電話
0944-63―2333
 
FAX
0944-63―8535
福岡三越店:
福岡市中央区天神2-1-1
福岡三越地下2階食品売場